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映画『カンバセーション…盗聴…‐4Kレストア版‐』あらすじと解説/フランシス・フォード・コッポラ監督が1974年に発表した緊迫感溢れる心理スリラー

盗聴のプロフェッショナルとして名高いハリーは依頼を受けてサンフランシスコ公演を歩くカップルの会話を録音するが、依頼人とやり取りを重ねるうち、倫理的なジレンマに陥り次第に正気を失っていく・・・。

映画『カンバセーション…盗聴…』は、フランシス・フォード・コッポラが1974年に発表した緊迫感溢れる心理スリラーだ。

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

 

主役のハリーをジーン・ハックマンが演じている他、依頼人役でロバート・デュバル、その秘書役で若き日のハリソン・フォードが出演している。

1974年・第27回カンヌ国際映画祭グランプリ作品。

 

特集上映「70/80年代 フランシス・F・コッポラ 特集上映 終わりなき再編集」の一本として全国の映画館で順次公開中。

 

映画『カンバセーション…盗聴…‐4Kレストア版‐』作品情報

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

1974年製作/113分/アメリカ映画/原題:The Conversation

監督・製作・脚本:フランシス・フォード・コッポラ 共同製作:フレッド・ルース 撮影:ビル・バトラー 美術:ディーン・タボウラリス 衣装:アジー・ゲラード・ロジャース 編集:リチャード・チュウ 音楽:デビッド・シャイア

出演:ジーン・ハックマン、ジョン・カザール、アレン・ガーフィールド、フレデリック・フォレスト、シンディ・ウィリアムズ、マイケル・ヒギンズ、エリザベス・マックレー、テリー・ガー、ハリソン・フォード、ロバート・デュバル

 

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映画『カンバセーション…盗聴‐4Kレストア版‐』あらすじ

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

盗聴のプロフェッショナルとして知られるハリー・コールはある人物から依頼を受け、人混みの中で密会する若い男女の会話を録音する。

不必要な音を消し2人の会話だけを明確にした録音テープを依頼主のもとへ届けに行ったハリーだったが、秘書が応対し、社長は海外出張中だから自分が受け取っておくと言う。ハリーは本人に直接渡すという約束だと主張し、秘書を振り切りテープを持ち帰った。

 

その際、ハリーは密会していた男女をオフィスの別々の場所で目撃する。2人ともこの会社に勤めている人物らしい。女が社長の妻で男とは不倫関係というわけだ。

 

胸騒ぎがしてハリーは会話で不鮮明だった場所のノイズをさらに取り除いてみた。すると、男性の方が「殺されるかもしれない」という不吉な言葉を発していたことが判明する。

 

ハリーはかつて自身が体験した忌まわしい出来事を思い出していた。もし、あの時のようなことが再び起こったとしたら!?

 

そんな時、彼の家の電話が鳴った。誰にも電話番号を教えていないはずなのにと疑心暗鬼になり電話に出ると相手は例の秘書だった。依頼人である社長が海外から戻ったので、テープを持って来いというのが要件だった。

 

社長はハリーが示した「浮気」の証拠に動揺を隠せない様子だった。ハリーは恋人たちが、次のデートの約束を取り付けていたホテルへと向かう。彼らが予約した部屋の隣の部屋にチェックインした彼だったが・・・。

 

映画『カンバセーション…盗聴‐4Kレストア版‐』感想と解説

(C)1974 Paramount Pictures Corporation

(ネタばれ&ラストに言及しています。ご注意ください)

 

ワシントン記念塔がそびえるナショナル・モールの一角を俯瞰で撮る長回しのオープニングがまず素晴らしい。

カメラが徐々に降りていき、一体誰に向かっているのか、どこに焦点があてられるのか息を呑んで見守っていると、合間に不思議な機械音のようなノイズが響く。やがてひとりの道化パフォマーに焦点が合い、彼は行き交う人々を追いかけてはその真似をしてみせるのだが、彼が前に立った男がジーン・ハックマンだとわかり映画は動き出す。

ジーン・ハックマン扮するハリー・コールは盗聴のプロで、ここで仕事仲間と共にある男女2人の会話を盗聴しているのだ。

 

公園という場所は大勢の人間の声や音楽が乱れている場所だが、ハリーは採取した音からノイズを省き、男女の会話を鮮明にして依頼主に手渡す。70年代に使用されていたそれらの機器の数々や作業の様子が興味深い。盗聴用の機器の見本市なんていうのも登場する。

 

彼はその職業ゆえか、ひどく秘密主義で、恋人や仕事の部下にも一線を引いている。恋人や部下は彼のことをそのまま放っておいてはくれない。恋人は彼のひととなりを知りたがり、部下は盗聴の背景を知りたがる。結局、彼らとはうまくいかなくなる。ハリーという人物は誰にも心を許さない非常に孤独な男なのだ。

 

また、録音したものがどのように使われるかに関しても彼は関心を示さないが、過去に見事に盗聴に成功したもののそのせいで死者が出るという経験をしており、背負っている罪の意識が彼を徐々に疑心暗鬼にさせていく。終盤のホテルの隣室を探る際の演出はホラー映画の手法を採用し極めてショッキングだが、コッポラは、現実か妄想かをわざと曖昧にして、ハリーの内面に深く踏み込んでいく。

 

ラスト、今度は自分が盗聴されたと聞き、彼は自室に仕込まれた盗聴器を探すがみつからない。彼の行動はどんどんエスカレートしていき、壁紙や床までも剥がしてしまう。無機質で美しかった部屋は無残な姿と成り果て、その脆さを白日の下にさらす。それはハリーの寒々した心の象徴であり、プライバシーというものを手玉に取る欺瞞に溢れた社会の成れの果てにも見える。