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映画『ストレージマン』あらすじ・感想/パンデミックが顕にした社会のひずみと人間の弱さを描くソーシャルスリラー

映画『ストレージマン』萬野達郎監督)は2023年5月20日(土)より 池袋シネマ・ロサにて2週間劇場公開!

 

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コロナ不況のため仕事を解雇された森下は、住む家も家族も失い、トランクルームで息を潜めながら生活をするようになる—。しかしトランクルームで生活しているのは彼だけではなかった・・・。

 

映画『ストレージマン」は、コロナショックによる孤独な巣篭もり生活の中で、居場所すら奪われ、人々との繋がりが崩壊していく不安を鋭く捉えたソーシャル・スリラーだ。

 

斬新な設定と緻密な人間描写で福岡インディペンデント映画祭2022にてグランプリに輝き、 SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022にて観客賞を受賞。その後もロサンゼルス・アジア映画祭にて作品賞と主演男優賞にノミネートされるなど、国内外で高い評価を受けて来た作品がいよいよ劇場公開される。

 

ランクルームで生活する男・森下を演じるのは、プロデューサーとしても本作に参加している連下浩隆。その妻・晶子と、妻と瓜二つの女性・由美子を瀬戸かほ一人二役で演じている。  

 

目次

 

映画『ストレージマン』作品情報

(C)MANTRIX PICTURES

2022年/39分/DCP/シネスコ

エグゼクティブプロデューサー・脚本・監督:萬野達郎  プロデューサー:れんげひろたか アソシエイトプロデューサー:碓氷恭子 ラインプロデューサー:荒井智晴 キャスティング:柳井宏輝(パロマプロモーション) 助監督:吉原圭太 撮影:宮下徹也 照明:大堀治樹 録音:亀井耶馬人、高島良太  美術:桂誉和 ヘアメイク:奈央 衣装:金鹏 編集:岡島龍介 整音・効果:高島良太 作曲:足立知謙 スチール:安井信介 デザイン:斉藤我空 宣伝:滝澤令央 配給:MANTRIX PICTURES+Cinemago 製作:MANTRIX PICTURES

出演:連下浩隆、瀬戸かほ、渡部直也、矢崎広、米本学仁、立野沙紀、宮崎翔太、林凛果、森恵美、奥井奈南、しじみ古坂大魔王(声の出演) 渡辺裕之

 

映画『ストレージマン』のあらすじ

(C)MANTRIX PICTURES

コロナショックの煽りを受け、勤めていた自動車工場から派遣切りにあった森下。再就職先も見つからないまま社宅を追い出された挙句、妻・晶子の両親からは離婚を切り出されてしまう。

 

娘の養育費を貯めようとアルバイトに奮闘する中、森下が見つけたのは妻と瓜二つの女性・由美子が通うトランクルーム。住む場所もなく、追い詰められていた森下は、そこで最低限の生活を始めるのだが・・・  

 

映画『ストレージマン』の解説・レビュー

(C)MANTRIX PICTURES

ランクルームに息を潜めて住み着いている人がいるー。なんとも衝撃的なオープニングだ。まさかそんなところで人が寝泊まりしているだなんて普通は思いもしないだろう。

 

ところが、ためしにネットで検索してみると、「トランクルームで暮らす方法」なる記事がヒットするのだ。もちろん、トランクルームでの寝泊まりは禁止されているのだが、こんな記事があるということはここに住もうと考える人が存在するということだ。

 

ちょっとした秘密基地と考えると悪くない場所かもしれないが、実際に暮らすとなるとまずその狭さが気になる。時々、日本映画に登場する簡易旅館の細長い極端に狭い部屋もここまで狭くない。それでも本作の、連下浩隆扮する主人公の森下のように、仕事も家も家族も失ってしまった人にとっては屋根があり、身を横たえられる場所なのだ。必然的に撮影も俯瞰や、背中越しのショットが多くなり、そのことが森下が味わう深い孤独を如実に表しているといえるだろう。

 

COVID-19の感染拡大は大勢の大切な命を始め多くのものを奪ったが、こうした未曾有の災害が起こった時、顕になるのは、災害前に人々が営んでいた日常生活が、経済的にも人間関係においても如何に余裕がなくぎりぎりであるかということだ。

何もない時は、なんとか保っていたものが、一度大事が起こった途端、バランスが崩れ、うそのように決壊してしまう。本作で森下が味わったことは決して大げさなものではなく、誰にでも起こりうることだ。極端にも見える妻の実家の反応は、彼らの結婚が親の反対を押し切ったものだったこと、その後に続いただろう親との緊張関係を想像させる。

 

非正規で働いている人々に経済的余裕はなく、とりわけ瀬戸かほ扮する森下の妻にそっくりな由美子のように、好きなものにお金を注いで来た人にとって、その収入を途絶えさせる出来事が起これば、たちまち立ち行かなくなってしまうことは容易に想像ができる。彼女にとって、生き甲斐を奪われることは何よりも苦しいことだったに違いない。  

 

萬野達郎監督は、このように、彼らの今の姿を克明に描写する中で、彼らの過去の事情や内面を浮かび上がらせ、パンデミックが顕にした社会のひずみと人間の弱さと脆さに焦点を当ててみせる。

そしてその上で、絶望の中でも失われない人間性とちょっとした勇気が希望をもたらす姿も見せてくれる。

 

主演の連下浩隆の身にしみるような熱演と、一人二役を演じた瀬戸かほの存在感が素晴らしい。また、トランクルームの主のような謎めいた男を演じる渡部直也も実に印象的である。

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