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映画『ナナメのろうか』あらすじ・感想/姉妹と思い出の家がもたらす極めて刺激的な映画体験

映画『ナナメのろうか』は2023年5月26日(金)より出町座、5月27日(土)より元町映画館にて上映!

 

長編映画第一作『ある惑星の散文』がフランスのベルフォール国際映画祭やアメリポートランド美術館で上映されるなど、その豊かな映画表現とロケーションから着想を得たユニークな映画作りが国内外で高く評価された深田隆之監督。

その余韻も冷めやらない中、発表された新作『ナナメのろうか』がいよいよ関西でも公開される。

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映画『ナナメのろうか』はオルタナティブな映画表現を追求する深田隆之がモノクロ&スタンダードで挑んだある姉妹の物語だ。

 

姉妹を演じるのは『センターライン』(2018)の吉見茉莉奈『春原さんのうた』(2021)、『王国(あるいはその家について)』(2019)の笠島智。ふたりの心のすれ違いはやがて思わぬ展開へと向かって行く。  

 

目次

 

映画『ナナメのろうか』作品情報

2022年製作/44分/日本/

監督・脚本:深田隆之 撮影:山田遼 照明:小菅雄貴 録音:河城貴宏 整音:黄永昌 カラリスト:山田遼 音楽:本田真之 助監督:高橋壮太 制作:南香好 英語字幕:上條葉月

出演:吉見茉莉奈笠島

映画祭入選:第70回サン・セバスティアン国際映画祭 サバルテギ・タバカレラ部⾨ ノミネート 第37回ベルフォール国際映画祭インターナショナルコンペティション(短編部門)ノミネート

 

映画『ナナメのろうか』のあらすじ

 

改装される予定の祖母の家の片付けのためにやって来た姉妹、聡美と郁美。

 

妹の郁美は妊娠し、シングルマザーになる決意をしていた。2人は片付けの最中、昔遊んだおもちゃ箱を見つけ、子どもの頃のように遊び始める。

 

しかし、お腹の子どもをめぐってお互いの価値観の違いが露わになると、郁美は気分を害してひとりで二階に上がっていく。

 

ふと姉の名前を呼んでみるが返事がない。2人は家の中ですれ違い、会えなくなってしまう。嵐の夜の中、姉妹は暗闇の中でお互いを呼び合うが・・・。  

 

映画『ナナメのろうか』の解説・レビュー

扉や階段、廊下などを画面の中央に配したショットを頻繁に用いて祖母の家を撮っている。階段の固定ショットでは突然落ちてきた物がバラバラと音を立てて転がっていく。ごくごく普通の民家がなんだか意思を持っているかのようにユニークに捉えられている。

 

そうした空間を聡美と郁美の姉妹は勝手知ったる様子で行き来する。

ここは懐かしい思いが詰まった場所だ。その場所が改装されてしまうことに郁美は幾分懐疑的なようだが、聡美は割り切っているように見える。

 

懐かしい玩具を見てスイッチがはいった2人は、童心に帰って無邪気に家の周りを駆け回る。そんな2人は普通に仲の良い姉妹に見える。

だが、郁美が妊娠していて、シングルマザーの道を歩もうとしていることで、2人の間にズレが生じ、そのことで感情的になった郁美はひとりになることを選択し、二階に上がって行ってしまう。

 

無邪気でいられた子供時代はとうに失われてしまった。今は互いに別々の価値観を持って別々の人生を歩んでいる。が、他人ではない「姉妹」という関係だからだろうか、割り切れない、享受できない複雑な心理が見え隠れする。

 

そんな中、映画は突然がらっとその様相を変える。

 

深田隆之監督は前作『ある惑星の散文』で、本牧の漁港や何気ない住宅街の映像に火星移住を題材にした脚本を読む声を重ね、まるでその何気ない景色こそが実は火星なのではないのかと思わず錯覚してしまうような、不思議な瞬間を描いた。

 

本作でも、映像と音によるユニークな手法で、空間をまったく別なものへと変容させている。静かな人間ドラマだったものがホラーのような様相を呈していくのだ。

 

「映画表現だけが持つ話法の可能性に賭けたひとつのチャレンジでした」と深田監督が語っているように、本作を観ることは極めて刺激的な映画体験だ。

郁美役の吉見茉莉奈と聡美役の笠島智は、姉妹の対峙を静謐かつサスペンスフルに演じ、彼女たちの人生と心の様態を精緻に照らし出している。  

 

併映作品(短編2作)紹介

関西圏では下記の短編2作が合わせて上映される。

 

『one morning』(2013/7min/カラー)

結婚間近の若い2人は、妻の両親のところへ挨拶しに行こうとしていた。しかし男はあまり気乗りしない様子でベッドに寝そべったまま。結婚前の不安に駆られた彼女が起こす行動は、2人にささやかな変化をもたらすのだが…。

出演:パク・ソンヒ、ジントク

撮影:古澤淳、録音:渡部雅人、島田雄史、助監督:田中浩美、衣装:小林和貴

 

『わたし/あいだ/わたし』(2021/8min/カラー、モノクロ)

2019〜2020年にかけて制作された本作は、監督本人の祖母の家で撮影された。監督自身が小さい頃に聞いた戦争の話、家についての個人的な思い出と、三世代の女性たちにまつわるフィクションが行き来する。祖母の家への郷愁を軸としながら、母・娘という循環的な関係が交錯していく構造となっている。

出演:中川ゆかり

撮影・編集・脚本:深田隆之 音楽:本田真之 英語字幕:上條葉月   製作:√CINEMA 

 

www.chorioka.com

 

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