結婚を明日に控えるエリート会社員は、同僚たちに呼び出され、独身最後の飲み会に参加するが、帰宅中、マンホールに落ちてしまう。SNSを駆使してなんとか脱出しようと試みる彼だったが、思いもよらぬ展開が待っていた。
「Hey! Say! JUMP」の中島裕翔が『僕らのごはんは明日で待ってる』(2017)以来、6年ぶりの映画出演を果たし、苦難に陥ったエリートサラリーマンを熱演。
「ライアーゲーム」、「マスカレード・ホテル」シリーズの岡田道尚によるオリジナル脚本で、『鬼畜大宴会』(1998)『海炭市叙景』(2010)の熊切和嘉が監督を務めた。
(本稿ではネタバレを回避していますが、『#マンホール』は何も情報を得ずに鑑賞するのがベストの作品ですので、まだご覧になっていない方はそれを踏まえてお読みください)
目次
映画『#マンホール』の作品情報
2023年製作/99分/日本
監督:熊切和嘉 原案・脚本:岡田道尚 撮影:月永雄太 照明:秋山恵二郎 録音:吉田憲義 美術:安宅紀史 衣装:宮本茉莉 ヘアメイク:岩本みちる 編集:今井大介 VFXスーパーバイザー:オダイッセイ 音響効果:浦川みさき 音楽:渡邊琢磨 キャスティング:原田浩行 助監督:海野敦 制作担当:八城竜祐
映画『#マンホール』あらすじ
不動産会社に勤務し、トップの営業成績を誇る川村俊介は、社長令嬢との結婚も決まり、幸せの絶頂にいた。
結婚式の前夜、渋谷でサプライズパーティーが開かれ、ひどく酔った彼は、その帰り道にマンホールに転落してしまう。
マンホールの底で目を覚ました彼は、足にひどいケガを負っていた。
痛みをこらえながら、上に登ろうとするが、どうしても上がることが出来ない。
スマートフォンで婚約者や今日あった友人たちに片っ端から電話するも夜遅いこともあり誰も出てくれない。
唯一、舞という女性だけが電話に出た。かつて付き合ったことがあり、一方的にこちらからふってもう何年も会っていなかった女性である。
スマートフォンのGPS機能で居場所を確かめると渋谷の神泉となっていた。
舞に来てくれるように頼むと、最初は遠いし、時間も遅いと渋っていたが、結局、車を出してくれるという。
これで助かったとホッとするが、舞から電話がかかってきて、渋谷についてさんざん捜したが、場所がわからないという。警察に頼めという彼女に、俊介は思わずカッとなって、本当は渋谷に来てないんだろうと怒鳴ってしまう。
仕方なく警察に電話し、居場所を告げるが、いつまでたっても警察はやって来ない。
ようやく警察から連絡が来るが、渋谷をくまなく探したが、蓋の空いたマンホールはみつからないという。最悪なことにGPS機能が正常に機能していないらしい。
ここは一体どこなのか⁉ 何か、場所を特定するものは見えませんか?と警察に聞かれた俊介は動画が撮れるようにスマホを設定し、上に何度も放り投げてみた。
なにやら建物のようなものが映っていたが、さっぱりどこかわからない。
そのうち雨が降りだし、寒さともたたかわなければならなくなった。おまけにホール内では白い泡が湧き出して止まる気配がない。
さらにガスまで漏れてきて、あわてて持っていたセロテープで配線をぐるぐる巻きにしてその場を凌いだ。
俊介は「マンホール女」という名のアカウントをSNS上で立ち上げ、ネット民に助けを求めることにした。
画像はネットから探したアイドルの女性の顔を使用。「渋谷での飲み会の帰りにマンホールに落ちて出られません。誰か助けてください」と書き込んだ。
舞からその後、出られたかと電話がかかってきた。どうやら場所は渋谷ではないらしいと応える俊介。
舞はケガをしていないかと尋ね、俊介はケガの様子を写真に撮り、送信した。舞は看護師なのだ。
かなりひどい状態だと舞はいい、治療が必要だという。放置していたら壊死して、外に出られても今度は結婚式に出られないだろうと。
糸か針のようなものはないかと問われ、持ち物を探したところ、見つかったのはホッチキスだった。
舞の支持通り、ホッチキスで傷口を防ぐが、あまりの痛さに俊介は何度も悲鳴をあげた。
舞にアカウントのことを話すとどうして女性なの?と尋ねられる。女性の方がみんな親身になってくれるだろうと俊介は答えた。
しばらくして舞から連絡があり、「マンホール女」の書き込みがバズっているという。
有名アカウントがみつけてくれ、拡散してくれたらしい。ついているレスのほとんどが冷やかしや遊び半分のものだったが、その中で場所がわかるようなものはありませんかという書き込みがあった。
俊介はスマホを投げて撮った動画をアップ。今は雨が降っていると書き込むと、渋谷は今、雨が降っていないというレスがついた。
何時ごろ降り出しましたか?と問われ、深夜一時半ごろだと応えると、その頃から雨が降り出したのは北関東だという返信が届く。
まさか、ここは渋谷ではないのか? 北関東って、そんなことあるわけがないではないかと俊介は動揺する。
「拉致されたな」という書き込みを見て、愕然とする俊介。何者かが彼を酔わせて見知らぬ場所に連れて来たのだろうか? GPSをいじったのも犯人の仕業なのか?
俊介はネット民の力を借りて、自分がいる場所と犯人を突きとめようとするが・・・。
映画『#マンホール』感想・解説
明日に結婚式を控えた有能で爽やかな青年が、帰宅中、蓋のあいたマンホールに落下。
足にひどいケガを負い、どうしても脱出できず、恋人や友人たちに電話をかけまくるが、深夜という時間帯のせいか出てくれたのは元カノたったひとり。
警察に頼んでもらちが明かず、ネットにアカウントを作って、ネット民の強力を経て脱出を図ろうと試みるがー。
棺に入れられ生き埋めにされた男が棺の中にあった携帯電話を駆使して助けを求めるロドリゴ・コルテス監督の『リミット』(2010)を彷彿させるソリッドシチュエーションスリラーだ。
このジャンルでは、失踪した娘の痕跡をインターネットで追跡し、PCの画面のみで構成されるアニーシュ・チャガンティ監督の『search/サーチ』などの秀作もあり、どこまでオリジナリティを出せるかが勝負となるが、本作は様々なアイデアを豊富に盛り込んだかな~り面白い作品に仕上がっている。
ほぼマンホールの中だけでの中島裕翔の独り舞台が光る。
すぐに向かうと言って一向に来ない警察や、頼りない元カノにイライラして怒りを爆発させたり、連絡がとれない恋人に思いを馳せたりと、多様な感情を見せ、観る者は彼と共にその場にいるような感情を覚える。
観客に高みの見物を許さないのは、中島の熱演はもちろんのこと、『ケイコ、目を澄ませて』でも風景を繊細に切り取っていた月永雄太によるカメラの貢献も大きい。
そこに次から次へと試練が訪れるのだからたまらない。SNSの有象無象の匿名の書き込みから、おのずと人格が表れてくるのも面白く、物語は全く予想のつかない方向へと転がっていく。
アイデアの豊富さと、熊切和嘉の出世作『鬼畜大宴会』を思い出さずにはいられない畳み掛けるようなハードな演出に、思わず手に汗握ってしまう。
映画を観終えたあと、スピーディーな展開ゆえに疑問を持ちながらも深く考えられず流していた箇所が、きっちりとした伏線になっていることにも気づかされる。
多少強引な部分もあるが、それらも力技でねじ伏せる怒涛の展開で、ノンストップで楽しめるエンターティンメントに振り切った圧巻の99分だ。