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映画『恋のいばら』あらすじと感想/城定秀夫監督が松本穂香、玉城ティナ主演で描く「いばら姫」からの脱却

一人の男性と、その元恋人、そして現在の恋人による奇妙な三角関係を描く映画『恋のいばら』


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2004年に制作された香港映画『ビヨンド・アワ・ケン』(原題:公主復仇記、Beyond Our Ken)を『アルプススタンドのはしの方』(2020)の城定秀夫が大胆に脚色してリメイク。

 

『愛がなんだ』(2019)の澤井香織が城定監督と共同で脚本を担い、主演の女性ふたりを松本穂香玉城ティナが演じている。  

 

目次

映画『恋のいばら』作品情報

(C)2023「恋のいばら」製作委員会

2023年/日本映画/98分

監督:城定秀夫 脚本:澤井香織、城定秀夫 撮影:渡邊雅紀 照明:小川大介 録音:山本タカアキ 美術:野々垣聡 装飾:森公美 スタイリスト:石原徳子 ヘアメイク:MARI 編集:淺田茉祐花、早野亮 音楽:ゲイリー芦屋 主題歌・挿入歌:chilldspot

出演: 松本穂香玉城ティナ渡邊圭祐、中島歩、北向珠夕、吉田ウーロン太、吉岡睦雄、不破万作阪田マサノブ片岡礼子

映画『恋のいばら』あらすじ

(C)2023「恋のいばら」製作委員会

桃は図書館に勤務する 24 歳。返却された本を棚に戻していた時、ふと目についた本を開いてみた。

 

それはグリム童話の『いばら姫』という絵本だった。彼女はいつの間にか絵本に引き付けられ、気づけば声を出して読み上げてしまっていた。

 

その頃、莉子は、ポールダンスのショーが売りのクラブでバーテンダーのアルバイトをしていた。

 

ちょうどあがりの時間になったときに、個室の客にケーキを持っていくように指示される。

 

指名だというので仕方なくケーキを運び、ドアを開けると、一斉に「ハッピーバースディ!」の歓声が上がった。

 

恋人でカメラマンの健太郎を筆頭に大勢の人々が莉子の誕生日をサプライズでお祝いしてくれたのだ。  

 

その夜、莉子は、健太郎の自宅で一夜を過ごした。健太郎は祖母と二人暮らしで、祖母は、毎朝、ゴミ捨て場に捨てられているガラクタを拾ってくるのが日課だった。莉子はそんな彼女に温かい視線を向ける。

 

莉子はダンサーを目指しているが、なかなかチャンスは巡ってこない。健太郎という素敵な恋人に恵まれながらも、どこか空しい日々が続いていた。

 

そんなある日、バスに乗っていた莉子は、隣に座った女性がこちらをじっと見ているのに気が付き戸惑う。

 

最初はヘッドフォンの音漏れを疑ったがそうではないらしい。一体なんなのかと問いただすと、女性は健太郎の元カノの桃だと名乗った。

 

桃は健太朗との馴れ初めを語り、ある日、突然「もう終わりにしよう」と言われ、破局したという。

 

なぜ、私のことがわかったのかと莉子が尋ねると、健太郎のインスタを頼りに莉子のことをつきとめたという。

 

憮然とする莉子だったが、桃は莉子にお願いがあると切り出した。

 

「健太朗のパソコンに保存されている自分の写真を消して欲しい」

 

桃の知り合いが、別れた恋人からリベンジポルノの制裁を受け、自分も怖くなったのだと言う。

 

莉子はその頼みを断り、その場を立ち去るが、自身も健太朗にプライベートな写真を撮られたことがあったのを思い出す。

 

莉子と桃は再び会い、健太郎の家に忍び込む作戦を立て始めた。

 

まずは健太郎の行動パターンを把握していなければならない。ふたりは変装して、健太郎を尾行。思った以上に女性との交友が多いことがわかる。

 

莉子は私が一番ならそれでいいと言うが・・・。

 

莉子と桃は頻繁に会い、次第に心を通わせていく。そしてついに決行の日がやってきた・・・。  

映画『恋のいばら』感想と評価

(C)2023「恋のいばら」製作委員会

写真家・健太郎(渡邊圭祐)の元カノである桃(松本穂香)と今の恋人である莉子(玉城ティナ)が協力し合い、健太郎に撮られたプライベートな写真を消そうと彼の家に忍び込む・・・。

 

元カノと今カノが組むなんてありえないという面白さと、今カノが合鍵をもらっていない状態でどう部屋に入るのか、という興味とスリルが物語の基調をなすが、実際のところ、この点に関してはそこまでスリリングには描かれていない。

ここではその過程を経ていくうちに、桃と莉子の心が接近していくことが重要なのだ。

 

そう、これは女性同士の連帯の物語だ。  

 

健太郎は確かに魅力的な男性だけれど、ある種の男性のステレオタイプとして描かれている。美しい女性に目がないモテ男で、振る舞いもソフトで爽やかだが、根底には女性蔑視があると言わざるを得ない。「恋愛」という名の元で、女性を消費しているのだ。

 

桃と莉子は「消費される女性」であることはもうやめようと連帯するのである。 

 

本作はパン・ホーチョンが監督した2004年の香港映画『ビヨンド・アワ・ケン』をベースにしているが、20年近くが経った今でも、状況は対して変わっていないように思える。問題は根深いのだ。

 

本作には二冊の本が重要なアイテムとして登場する。

一つ目は図書館に勤める桃が手に取るグリム童話「いばら姫」の絵本だ。

 

王家に女の子が生まれ、宴が開かれる。この国には13人の仙女がいたが、宴の料理を盛る金のお皿が12枚しかなかったため、一人だけ招待されなかった。

その呼ばれなかった仙女が怒って女の子に呪いをかけ、女の子は100年の眠りにつくことになる。ディズニーの『眠れる森の美女』の原作としても知られているお馴染みの作品だ。

 

その女の子が呪いをかけられる前、12人の仙女たちは女の子にいくつもの願いをかける。「富」、「美」、「徳」といったあらゆるものを女の子は授けられるのだ。

 

桃はこの本を手に取り、気づかないうちに声を出して読み上げていた。彼女はのちに、莉子にこの本のことを話し、こう述べている。

 

「“本当にほしいものが手に入り、成りたいものになれますように”という願をかけてもらえるならその方がいい」と。

 

こうした御伽ばなしへの異議申し立ては玉田真也監督の『そばかす』にも見られた。

三浦透子扮する主人公が前田敦子扮する友人と共に女性の人生のゴールは結婚なのかと「シンデレラ」のお話に疑問を呈し、新しい自分たちの「シンデレラ」の物語を紙芝居にするのだ。

 

2作に共通しているのは、本当の幸せとは何か、既成の概念にとらわれずいかに生きるべきかという課題に直面し、対峙し、もがく女性たちの姿だ。

 

小さい頃に無造作に与えられる御伽ばなしというのは女性にとって一種の呪いなのかもしれない。それでも女性たちは、そこからの脱却を願って手を取り合う。松本穂香玉城ティナがそれぞれの持ち味を十分に出している。

 

さて、もう一冊の本は『Woman‘s Sadness』という写真集の洋書である。この本が実在するものなのかは、勉強不足でよくわからないのだが、内容云々よりもストーリーの展開上、とても重要な役割を果たすのである。  

 

この本は序盤に莉子に捨てられてしまうのだが・・・。 伏線を回収し、あっと言わせるラストが素晴らしい。

(文責:西川ちょり)

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