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映画『猫と庄造と二人のをんな』あらすじ・感想/森繁久彌、山田五十鈴、香川京子で描く嫉妬と確執の三角関係

映画『猫と庄造と二人のをんな』(1956)は神保町シアターの特集企画「没後10年 女優・山田五十鈴」(11月26日~12月23日)にて上映!

谷崎潤一郎が昭和11(1936)年、雑誌「改造」に発表した小説を、文芸作品で定評のある豊田四郎監督八住利雄脚色で映画化。

(C)東宝1956

兵庫芦屋附近の荒物屋を舞台に、猫に異常な愛情を注ぐ男、庄造と愛猫リリーに嫉妬する二人の女たちの確執を描く。

庄造に森繁久彌、庄造の元妻に山田五十鈴、庄造の愛人に香川京子が扮し、浪花千栄子が庄造の母親役を演じている。  

 

目次

『猫と庄造と二人のをんな』作品情報

1956年製作/東宝/35分 原作:谷崎潤一郎 監督:豊田四郎 脚色:八住利雄 撮影:三浦光雄 美術:伊藤熹朔 音楽:芥川也寸志 録音:藤好昌生 照明:猪原一郎

出演:森繁久彌山田五十鈴 香川京子浪花千栄子、南悠子、環三千世、芦乃家春男、山茶花究、内海突破、横山エンタツ、三好栄子、谷晃、春江ふかみ、桂美保、平尾隆弘、森川佳子、万代峰子、田中春男、宮田芳子

『猫と庄造と二人のをんな』あらすじ・感想

森繁扮する庄造の家は、芦屋の浜で荒物屋を営んでいる。妻のお品(山田五十鈴)が家を出て行くところから物語は始まる。仲人の畳屋(芦乃家雁玉)を呼びつけて、「お二階さんと大喧嘩しましてん」と愚痴るお品。

お二階さんとは、庄三の母親(浪花千栄子)で、しっかり聞き耳をたてているのだが、二人が階段をあがってくるといびきをかいて寝たふりなぞしている。

これが良いところを探すのが難しいくらい本当にいけすかない人物で、もらったメロンも家族と分けようともせず独り占めするような強欲ぶりなのだが、とぼけたおかしさがあってなぜか憎めない。庄三との会話など、テンポのいい漫才のようで、笑わせる。  

 

一方の、お品は、同情をひく、感情移入しやすい人物かと思いきや、これが曲者。いまでいうところのストーカーに近い、ぞくっとする怖さが漂っている。

へんな愛想笑いをしながら(ひひひと笑う)、ひきつった表情で、家の、あるいは、人の心の奥へ奥へと分け入ってくる姿は、観るものを一歩も二歩も引かせるものがある。「お前にとって一番大事なのはボクじゃないのや。お前の意地やないか」と後に庄三が品子に語る場面で、我々も、はっと彼女の正体に気付くことになる。

一方、西宮の持参金付き娘で、不良の福子が後妻となるが、この福子を香川京子が熱演している。この人がこんな芝居をやっていたとは驚きだ。どちらかというと、良家のお嬢様や、学校の優等生が似合う清純派のイメージをもっていたのだが、短パン、下着姿で、脚を思う存分放り出し溌剌としている。

西宮の浜辺で、脚フェチの谷崎原作らしく、森繁が、香川京子の脚を猫をなでるようになでつけるシーンまである。

本来なら、甲斐性なしのマザコン男に共感する部分などあるはずないのだけれど、森繁が、リリーという名の猫を本当に可愛がっている姿に、ついついほだされてしまう。

一方、猫を放ったり投げたりする女どもには、これっぽちも共感など持てない。森繁でなくとも、「君らは、泣いたり、興奮したりするけど」と説教の一つもしたくなるくらいだ。が、そんな光景も、関西的なユーモアに包まれていて、人間の哀れ、可笑し味を滑稽に映し出している。

 

とれとれの鯵を売りにくる谷晃扮する行商人が何度か出てくるが、リリーが森繁家からいなくなったとき、この鯵屋が、「いりまへんか〜」と店の奥をこころもとなく覗いていく姿がリリー不在の悲しみを表している。

 

物語の舞台は、芦屋、西宮の浜。庄三の家の近くには、「あしや」という喫茶店があり、店の女がシュミーズ姿のまま、通りかかった庄三を呼び込むところがある。また、品子が身をよせる妹の家は六甲近辺だとか。この妹の夫(山茶花究)が哲学かぶれなのがまた面白い。文芸映画であり、阪神間映画であり、猫映画としても見応えがある。

DVD化されておらず、配信もされていないので、劇場で上映される機会に観ておきたい作品。

 

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