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映画『昨日消えた男』(1941年) 感想・あらすじ/マキノ正博監督が長谷川一夫・山田五十鈴主演で描く明朗謎解き時代劇

映画『昨日消えた男』(1941)は神保町シアターの特集企画「没後10年 女優・山田五十鈴」(11月26日~12月23日)にて上映!

ダシール・ハメットの『影なき男』を原作にしたウィリアム・パウエルマーナ・ロイ主演のMGMの人気シリーズを下敷きに、舞台を江戸時代の長屋に、パウエル演ずる探偵を遠山の金さんに置き換えた推理時代劇。

脚本家小國英雄とマキノ正博のコンビは数々の傑作を生み出したことで知られているが、本作もそのひとつだ。マキノは早撮りで知られるが、『昨日消えた男』の撮影日数はわずか10日間だった。   

 

目次

『昨日消えた男』(1941)作品情報

1941年/東宝映画/89分 監督:マキノ正博 脚本:小國英雄 原案:ダシール・ハメット(『影なき男』) 撮影:伊藤武夫 音楽:鈴木静一 録音:安恵重遠 照明:藤林甲

出演:山田五十鈴長谷川一夫高峰秀子徳川夢声、江川宇禮雄、鳥羽陽之助、清川虹子清川荘司進藤英太郎、鬼頭善一郎、藤間房子、渡辺篤 、サトウ・ロクロー、杉寛、澤井三郎、坂東橘之助、川田義雄

『昨日消えた男』(1941) あらすじ

ある酔っ払いが長屋の大家で金貸しの勘兵衛の死体を発見する。あわてて目明しを呼びに行き、死体のあった水車小屋に引き返すが、あったはずの死体がなくなっているではないか。

長屋は大騒ぎとなるが、別の場所で勘兵衛の死体が発見される。与力の原六之進は一同を集めて取り調べを始めるが、勘兵衛は長屋中の人に嫌われており、誰にでも動機があった。

一番疑わしいのは長屋に住む遊び人の文吉(長谷川一夫)だったが、文吉は芸者の琴江と会ったあと、追っ手を振り払い姿を消してしまう・・・。

『昨日消えた男』ネタバレ感想・解説

「昨日消えた男」 (c)1941 東宝

長谷川一夫山田五十鈴、と登場人物たちの顔のアップが次々現れるタイトル。その表情で、それぞれのキャラクターがあらましわかってくるという仕組み。

雨が瓦の屋根の上に降り注いでいる。屋根からカメラはゆるゆると下方へパンしていく。酒屋の提灯。店内で酒を飲んでいる二人。籠引きの二人組(渡辺篤、サトウ・ロクロー)の口癖は「あ、なるほどね〜」「まったくだ」で、これが全編にわたってくどいほど繰り返される(それが面白いかというと・・・?)

高峰秀子と徳川無声の父娘が住む長屋に、大家の勘兵衛が借金の取り立てにやってきている。その様子を外から伺う長屋の連中。清川虹子と島村陽之助の夫婦が賑やかに夫婦喧嘩をしたり、あとから出てきた長谷川一夫が一人でいきまいてみせたりするコメディータッチな芝居から、勘兵衛がいかにひどいやつで憎まれているかが語られていく。

威勢がいいだけの長谷川を山田がちくり。二人は互いにひかれあっているのだが、素直になれず口喧嘩ばかりしている。二人がちょっと舌だしてアッカンベー的なことをし合うのが愉快だ。  

 

清川、島村夫婦の家には人形がいっぱい。島村は人形師なのだ。等身大の女の人形を可愛がる夫にヤキモチをやく妻。「私と人形のどっちがいいんだよ」と迫り、人形と同じ格好をしてみせる姿が笑える。のちにこの人形はちょっとした役割を果たすことになる。

そんな中、大家の勘兵衛が殺される。死体があったというところに死体はなく、勘兵衛の亡骸は別のところで見つかる。ここに目明しがやってきて調査を始めるのだが、この長い夜の暗さは漆黒の暗さ。地面には雪。モノクロ映画ならではの美しさだ。

怪しい住民たちの行動や、お取り調べなどを経て、ついに長谷川の見せ場がやってくるのだが、そのアクションシーンで、彼は刀どころか、棒きれ一本ももたず、しかし、追いかけてくる人々を交わしながらダイナミックに後ろへ後ろへと躍動して、立ち振る舞う。

お奉行の姿になった長谷川が、事件を解決してみせるが、さすがに原案があるだけに謎解きの筋も通り、あっぱれ遠山良い天気となる。

そしてラストも山田とのアッカンベー。フィルム・ノワールの要素を持ちながらまるでスクリューボールコメディーのような痛快作だ。

 

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