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映画『もっと超越した所へ。』あらすじ・感想・評価解説 / 前田敦子×菊池風磨等の恋の行方は!?

2015年にザ・スズナリで上演された、劇作家・根本宗子の戯曲を根本自ら脚本を担当して映画化。4組のカップルに別れの危機が訪れたとき、女性たちにある感情が沸き起こる! 観る者をくらくらさせる個性あふれる恋愛劇だ。


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監督は、山岸聖太。前田敦子菊池風磨伊藤万理華オカモトレイジ趣里千葉雄大黒川芽以三浦貴大が、それぞれ四組のカップルを演じている。  

目次

『もっと超越した所へ。』作品情報

2022年製作/119分/日本映画 監督:山岸聖太 原作・脚本:根本宗子 撮影:ナカムラユーキ 出演:前田敦子、菊池風麿、伊藤万理華オカモトレイジ黒川芽以三浦貴大趣里千葉雄大

『もっと超越した所へ。』のあらすじ

(C)2022「もっと超越した所へ。」製作委員会

2020年の冬。衣装デザイナーの真知子(前田敦子)はスーパーの店内で米袋を前にしてため息をついていた。5キロの米は重すぎると判断し、2キロの米を買うことにする。家に戻るには急な坂道を歩かなければならないのだ。

 

そんな彼女の元に現れたのはかつての同級生、怜人(菊池風麿)。売れない音楽家の彼は真知子の家に上がり込むとそのまま、家に居ついてしまう。

 

元売れっ子の子役で今は俳優よりもバラエティの仕事の方が多い鈴(趣里)は、ゲイを公言しているあざとかわいい富(千葉雄大)と一緒に暮らしていた。仲良く買い物に出かけ、一緒にDVDを観る日々だが、大概は鈴が富の恋バナの聞き役になっていた。

 

金髪ギャルの美和(伊藤万理華)はハイテンションなフリーターの泰造(オカモトレイジ)と散らかった部屋で同棲している。笑いの絶えない毎日だが、美和の体調が今ひとつすぐれない。泰造は美和を気遣いつつ、コロナを疑い、うつされてはたまらないと思っている。

 

風俗嬢の七瀬〈黒川芽以)のもとに客としてやってくる慎太郎(三浦貴大)は元子役で、今はエキストラしか仕事がない。プライドが高い慎太郎は七瀬には仕事が忙しいとうそぶき、「風俗嬢のくせに」と七瀬を見下す発言を繰り返す。

 

男たちは彼女に甘えて増長し、ついに女性たちの怒りが爆発。家を出ていくように言われた男たちは荷物をまとめながらもうじうじしてなかなか立ち去ろうとしない。「いつまでも泣いてないでとっとと出て行けー!」と女の怒声が響き渡る。

 

後日、スーパーで米袋を前に悩んでいる真知子。2キロの米を手に取ったとき、真知子は「これじゃ前と同じじゃない」とつぶやく。その感情は他の女性たちにも同じように湧き上がっていた。彼女たちがとった思いがけない行動とは!?

 

『もっと超越した所へ。』の感想・レビュー

(C)2022「もっと超越した所へ。」製作委員会

米を密封瓶にいれている女、スーパーでどの米を買うか迷っている女、パックご飯を電子レンジで温める女、仕事の合間にバッグから手製のおにぎりを出す女。お米つながりで四人の女性が登場する。最初は顔をみせず、その生活ぶりを一通り描写してから、顔をみせる演出が小気味いい。

 

彼女たちは、仕事の形態は様々だが、皆、働いていて部屋を借り、自立している。米は彼女たちの生活力や生命力を象徴するものでもあるのだろう。

 

そんな彼女たちにはそれぞれ恋人と呼べる相手がいる。どのカップルも男のほうが女性のテリトリーに転がり込んでいるという設定。それぞれユニークな組み合わせだが、とりわけ、前田敦子と菊池風麿のカップルが面白い。

 

中学の同級生だったふたりは、卒業以来初めて会ったというのにあれよあれよと同棲することになる。いきなり来て、ベッドに直行し、ずっとここにいてあげると宣言する男なんて、演じ方によってはなんて厚かましい奴だ!とイライラさせられそうだが、菊池風麿の厚かましいのだけれど厚かましさを感じさせないというか、強引なんだけど強引さを感じさせないというか、飄々とした気負いのない佇まいに、観ている者も、劇中の前田敦子と同様に「え?」とか「あ?」とか声を出すしかない感じなのだ。不思議な魅力のある役者である。

 

新型コロナウィルスの感染が少しずつ広がり始めた2020年の1月を舞台にしているのだが、根本宗子の脚本はさすがによく出来ていて、実は、途中、そこから数年前に時間が遡り、思わぬ事実が明らかにされる。と、同時にこの時間の巻き戻しが、映画の後半を飾る「力技」への伏線を担っているとも言える。

 

ただ、終盤の転機となる「あっという展開」の仕方は評価の分かれるところだろう。力技の強引さで持っていく場面なので、そこをあえて演劇っぽい展開で進めるのは悪くはないのだが、スペクタルとしては少々物足りなく感じてしまう。

 

また、女性たちの取る選択にもいささか失望してしまった。彼女たちならもっと別の生き方だって出来るのではと感じてしまったのだが、そのがっかり感はそれだけ彼女たちの恋愛模様にのめり込んで観ていたという証拠だろう。

 

映画を観ていて、そういえば、他人の恋愛話に親身になるほど、あとでバカを見ることはないということを思い出させてもらった気分だ。

 

さらに“そんなこと言いますけどね、どんなカップルだって、多かれ少なかれ、似たようなものでしょう?”といった作り手の視線も見えて、なんだか見透かされてしまっているようにも感じられた。

 

しかし、踊る阿呆に見る阿呆的な終盤の展開には不覚にも笑ってしまった。とりわけ、4組のカップル計8人が手を繋いで輪になって踊っている短いショットに降参してしまった。なんだか細かいことはどうでもよくなり、爽快感すら覚えてしまうのである。

 

それにしても役者が皆素晴らしい。その素晴らしい役者たちが喜々として演じているのがまたなんとも素晴らしい。昨今の日本映画の観客はまず「役者」を目当てに観に行くと聞く。そういう意味でも、本作は、観る人の期待を裏切らない作品になっていると言えるだろう。

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