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映画『血を吸うカメラ』感想・あらすじ マイケル・パウエルによる元祖イギリスサイコホラー

時々無性に「怖い映画」を見たくなる時がありませんか? 今回はそんなあなたに元祖サイコホラーと称されるマイケル・パウエル監督の1960年の作品『血を吸うカメラ』を紹介します。60年以上前の作品ですが、決して古びず、特別な怖さを漂わせている作品です。

(C) 1960 Canal + Image UK. Tous Droits Réservés.

脚本家のエメリック・プレスバーガーと共同で『黒水仙』(1947)、『赤い靴』(1948)、『ホフマン物語』(1951)などの名作を生み出し、40年代英国映画の巨匠として高く評価されたマイケル・パウエルが、単独監督作品として1960年に撮った作品『血を吸うカメラ』。原題の『PEEPING TOM』は「覗き魔」という意味だ。

サイコスリラーというジャンルの先駆けとも言われる作品で、当時はあまりの衝撃度に評論家からも観客からも激しい拒絶と非難を受けた。マイケル・パウエルはこの一作で輝かしいキャリアを終了させられてしまう。

作品は長い間、映画史の闇に葬られていたが、70年代にマーティン・スコセッシが作品を絶賛したのをきっかけに1979年に映画祭やアート系のシアターで完全版が上映され、再評価が進んだ。今ではイギリス・ホラー映画、サイコ・スリラーの代表作として知られている。

2021年にはエドガー・ライト監督の『ラストナイト・イン・ソーホー』にインスピレーションを与えた映画のひとつとして話題になったことも記憶に新しい。

 

 

目次

映画『血を吸うカメラ』作品情報

1960年製作/101分/イギリス 原題:Peeping Tom

監督:マイケル・パウエル 原作・脚本:レオ・マークス 撮影:オットー・ヘラー 出演:カール・ベーム、モイラ・シアラー、アンナ・マッセイ、マキシン・オードリー

映画『血を吸うカメラ』あらすじ

(C) 1960 Canal + Image UK. Tous Droits Réservés.

ある夜、客引きをしていた娼婦が鋭利な刃物で惨殺される。捜査は難航するが、犯人は映画撮影所のカメラマンであるマーク・ルイスという男だった。

マークは幼年期に学者だった父の実験台にされ、大きなトラウマを背負っていた。成人した彼はカメラを通して女性を観ることに快感を覚えるようになり、ついには変形カメラを製造し、カメラを覗きながら女性を殺すことで欲求を満たす殺人鬼に変貌していた。

しかし、普段は大人しく目立たない存在で、父の残した屋敷の一階を人に貸して自分は二階の部屋で隠れるようにして暮らしていた。

その夜は、一階に住むヘレンの部屋から彼女の誕生パーティーを祝う賑やかな声が聞こえていた。部屋をノックするものがあり、おどおどとドアを開けたマークの前にはケーキのおすそ分けを持ったヘレンが立っていた。

ヘレンはマークに好意を抱き、なにかと近寄ってくる。マークも彼女に好感を持ち、二人は交流を深めていくが、一方で、マークは殺人の欲求を抑えることが出来ない。

 

映画の撮影中、小道具のトランクを役者が開くと、そこには新人女優の死体が詰め込まれていた。スタジオは騒然とするが、犯人であるマークはその様子を冷静にカメラにおさめていた。何をしているのかと問われた彼はドキュメンタリーを撮っていると応える。

事件を担当する警部は娼婦殺しと新人女優殺しの犯人は同一人物ではないかと疑い始める。二人の恐怖に引きつった顔があまりにも印象的でよく似ていたからだ。

 

マークとヘレンはデートをするようになり、その仲は深まっていく。しかし、マークはフィルムを現像し、たったひとりの上映会をする欲求に囚われていた。ついに新人女優殺しのおさまったフィルムを映写機にかけるが、ふと見ると、部屋にヘレンの母親が立っているのに気が付き愕然とする・・・。

 

映画『血を吸うカメラ』感想

いきなり人間の顔のアップ。それも目を中心にしていて、激しいピアノの伴奏が響き、つぶっていた目が突然開かれる。大胆でショッキングなオープニングだ。

 

次いで、夜道にひとり、ショーウインドウを覗き込んでいる女の姿。そこに男が近づいてくる。男は胸元にカメラを持っていて、それをコートで隠しながら前進し続ける。画面には十字型の線が入り男が持つカメラ目線となる。

女は客引きをしていて、自分の住居に男を誘う。女は階段を登っていき、途中、狭い階段を降りてきた中年女とすれ違う。女は部屋に入り、リラックスしたように靴下を脱ぎ、服を脱ぎ始める。すると画面が揺れ、カメラを回している男の手が見えたかと思うと、男(カメラ)は女に近づいていき、最初戸惑うような感じだった女の顔が恐怖にひきつっていく。

次のシーンでは死体が発見され、警察が現場検証を行っている。一人の男がカメラを回している。警察にマスコミかと尋ねられるが、それ以外は特に誰も彼に気をかけていない。彼こそ殺人犯なのだが。

実はこの男、心理学者として有名な父親に育てられたのだが、父親は息子を使って「人間の恐怖」についての実験を行っていたという。それは完全な虐待であって、そのトラウマのせいで男は人が恐怖で震える姿に異様な興味を持ち、それをカメラに収めなくては気がすまないという人物になってしまったらしい。

男が暮らす家の一階に住む若い女性が、積極的に男とコミユニケーションを取りたがり、彼が映画の撮影の仕事をしていることを知った女は彼の撮った映像を観たがる。さすがに殺人の映像は見せられないので男は、父が撮った自分の幼い頃の映像を見せる。ここで彼の幼児期の悲惨な出来事が明らかになるわけだけれど、言葉で説明したり、回想シーンを用いずにこうした方法で過去を言及することにすっかり感心してしまった。

 

感心したといえば彼のカメラをささえる三脚に凶器がしこまれていること。冒頭の映像で、男の手が動いた時、最初は女の家にあった小型ナイフでも手にとったのかと思ったのだが、何も凶器がみえなかったので、そうか、そういうことだったのかと納得。さらにここに小さな鏡までもが仕込まれていて、被害者は自身の恐怖にひきつる顔を観ることになるという寸法。その姿をとらえたなんとも恐ろしいショットが登場する。

 

一階に住む女には危害を加えたくないという男の善良な面が描かれているにも関わらず、同時期に制作されたヒッチコックの『サイコ』と比べても「おぞましい作品」として、当時随分酷評されたらしい。

凶器と鏡が仕込まれた改造カメラがなんとも悪魔的な代物だったのが大いに拒絶反応を誘ったのだろうが、『サイコ』と比べて主人公に人間らしい面が少なからずあったことが逆に観客にリアルな感情を促し、身近なものとしての恐怖を与えたのかもしれない。

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